大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行コ)72号 判決

神奈川県茅ヶ崎市幸町二〇番一八号

控訴人

岡崎周

右同所

控訴人

有限会社光南興業

右代表者代表取締役

岡崎周

右控訴人両名訴訟代理人弁護士

今井征夫

神奈川県藤沢市朝日町一-一一

被控訴人

藤沢税務署長

柴田勲

右指定代理人

遠山廣直

石黒邦夫

竹田準一

長岡忠昭

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。控訴人有限会社光南興業(以下「控訴会社」という。)の昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日までの事業年度の法人税について、被控訴人が昭和四八年四月二八日付けでした更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。控訴会社の昭和四五年六月一日から昭和四六年五月三一日までの事業年度の法人税について、被控訴人が昭和四八年四月二八日付けでした更正及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、いずれも審査裁決による減額後のものである。)を取り消す。控訴会社の昭和四六年六月一日から昭和四七年五月三一日までの事業年度の法人税について、被控訴人が昭和四八年四月二八日付けでした更正及び過少申告加算税の賦課決定(前同)を取り消す。被控訴人が控訴会社に対して昭和四八年四月二八日付けでした昭和四五年一〇月分及び昭和四七年三月分の各源泉所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定(前同)をいずれも取り消す。控訴人岡崎周の昭和四七年度分所得税について、被控訴人が昭和四九年一二月二七日付けでした更正(ただし、所得金額につき審査裁決により減額後のものである。)及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示(原判決書一四丁裏六行目「二九〇〇円」を「二八〇〇円」に、二五丁表二行目「同1(二)(1)は争う。(2)の事実中」を「同1(二)(1)の事実中」に、同所五行目「(3)」を「(2)」に、同丁裏二行目「(4)」を「(3)」に改める。)並びに当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴会社の請求は原判決が認容した限度で相当であるから右の限度で認容すべく、控訴会社の右限度を超える請求及び控訴人岡崎周の請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次の二の説示を付加するほか、原判決理由説示(原判決書四〇丁表四行目「それぞれ所有権を」、同所五行目「所有権の」をいずれも削り、四一丁表末行「原告会社代表者尋問の結果」の下に「並びに弁論の全趣旨」を、四二丁表七行目「考慮して」の下に「管理会社を設立してこれによる運用を企図し」を加え、同所七行目「池田恵美子」を「岡崎恵美子」に、同丁裏六、七行目「負担する旨の合意をし、その旨の」を「負担する旨の」に、同所九行目「作成した」を「作成し、そのころ右各不動産を控訴会社に提供した」に、同所末行から四三丁表初行の「原告会社の代表取締役として」を「原告会社名で」に、同丁裏九行目「右代金」を、「右預り金」に、四五丁表八行目「鈴木利一」を「土地は鈴木利一の」に、同所一〇行目「昭和三七年二月」を「昭和三七年一月一〇日」に改め、四五丁裏四、五行目「二二九万五二六〇円で」を削り、四七丁表一〇、一一行目「昭和九年ころ設立認可を受けた」を「昭和九年六月六日認可を受けて設立された」に、五四丁裏一〇行目「昭和四〇年九月」を「昭和四〇年一〇月」に改め、五七丁裏二行目「しばしば行われるところで」を削り、五八丁表二行目「土地の対価」を「土地使用の対価」に、同所七行目「使用権」を「使用借権」に改め、七二丁裏四行目「受けていた」の下に「(乙第一一号証)」を加え、七七丁表五行目「前記二1」を「前記二2」に改める。)と同一であるから、これを引用する。

二1  控訴会社の本件A、B建物の所有権取得について

控訴人らが当審において提出した甲第四四号証(成立に争いがない。)及び甲第四六号証(弁論の全趣旨によつて真正に成立したことが認められる。)は、岡崎俊哉所有の茅ヶ崎市幸町六〇四二番地五地上建物(家屋番号一八〇六番)について、形式的には控訴会社と俊哉との間で控訴会社が俊哉から委託を受けて管理することにしていることを窺わせるもののようであるが、右甲第四六号証は、昭和四〇年一〇月一日、光之村と控訴会社との間において、従来控訴会社が委託を受けて管理してきた右建物を光之村の希望により解約し、光之村に明け渡すことなどを内容とする契約書であつて、所有者であり委託者であるとされる者は何ら関与しないまま、右当事者間で右建物に関する管理、収益に関する事柄が定められていることを示すものであり、契約書の文言にかかわらず、かえつて控訴会社に右建物の所有権のあることを窺わせるものである。成立に争いのない甲第五号証の一、二、原審における控訴会社代表者兼本人岡崎周の尋問結果により真正に成立したものと認める甲第四号証の六、第二三号証、成立に争いのない乙第一号証及び右岡崎周本人尋問の結果によると、右建物は、本件A、B建物と同様、控訴会社の固定資産として決算報告書に計上され、同建物の減価償却費は損金として処理され、固定資産評価額相当の金額を預り金として負債に掲げられていることが認められるから、右建物も、本件A、B建物と同様、俊哉から控訴会社に対し固定資産評価額を代金額として譲渡されたものというべきである。したがつて、甲第四六号証の存在は、控訴会社が本件A、B建物の所有権を取得したものであるとの認定を左右するものではない。

2  本件A、B土地の使用借権の評価について

使用貸借は、存続期間が定められておればその満了のときに終了し、期間の定めのないもののうち、契約で使用収益の目的を定めないものは何時でも返還請求をすることができるが、契約で使用収益の目的を定めた場合には、その目的に従つて使用収益するのに十分な期間を経過したときに終了するものと法定されている。本件A、B土地の使用貸借は、前示引用に係る原判決理由説示によつて明らかなように、期間の定めのない、貸家所有を目的とする使用貸借であり、貸主においてもその目的による制約を受ける関係上、かなりの長期間を予定した土地使用権であつて、賃借権に近似するものといえるところ、成立に争いのない乙第二五、第二八号証によると、茅ヶ崎市内における昭和四五年ないし四七年ころの借地権割合は、取引事例から見ても七割程度とするのが相当であると認められるので、本件使用借権の価額は、原判決理由説示二3(三)(原判決書六〇丁裏)にあるとおり、更地価額の五割(借地権価額の約七割に相当)と認めるのが相当であると判断される。もつとも、控訴人らが当審で提出した甲第四八号証は、東京地方裁判所八王子支部昭和五九年(ワ)第一四九七号事件における鑑定書であつて、八王子市片倉町の宅地に関する鑑定結果が記載されているが、同証には、使用借権の価額は更地価額の一五パーセントである旨の記載がある。しかし、右の結論を導き出した理由としては、使用借権設定の経緯、権利存続の見通し、現在の使用形態、及び慣行使用借権割合を考慮したことを挙げるだけで、それ以上の具体的な事由は掲記されていないので、本件の使用借権と直ちに比較することができないのみならず、右の判定要素を基準にして考慮してもなお、本件使用借権の価額を更地価額の五割とみることが過大であるということはできない。甲第四八号証を以つては、右判断を覆すことができない。

3  本件O、F、Gの各土地に係る使用権について

土地及びその地上建物を同一人に売却した場合であつても、建物の売却が先に行われ、その後一年三か月ないし二年六か月後にその敷地が売却されたという本件の場合にあつては、建物売却後土地売却までの土地の使用権は賃借権であると認めるのが相当である。けだし、いかに敷地を後に売却することが約定されていたとしても、その履行が絶対、確実であるとはいえないのであるから、建物買受人が敷地所有者との間で通常締結するところの賃借権を建物買受の際に設定したとみることが合理的な意思解釈であるし、このように解したからといつて後日建物買受人がその敷地を取得する上で妨げとなるものではなく、また、いずれかの一方に対し損害を与えるというものでもないからである。賃料についての明示の合意がないことも右認定の妨げとはならない。その他本件に現れた全証拠を検討しても、右認定を動かすに足りる特段の事由は見い出し得ない。

三  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条及び第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口繁 裁判官 安國種彦 裁判官 清水湛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例